| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-004  (Poster presentation)

チドリノキの萌芽;葉群配置戦略の地形依存性

成田晴香(横浜国大・理工), *若松伸彦(横浜国大・環境情報), 酒井暁子(横浜国大・環境情報)

 チドリノキは、斜面下部から渓畔域の不安定な立地に分布し、萌芽幹がよく見られる樹種である。そうした地表攪乱が卓越する立地では、萌芽幹の生成による損傷修復や葉群配置が重要なことがフサザクラ(Sakai etal 1995)等で示されている。しかしその一般性や戦略の類型についての研究は不十分である。そこで本研究では、秩父山地三頭山南東斜面の原生的冷温帯林にてチドリノキ(h>1.3m, n=168)の生育環境と萌芽特性を調べた。

 本種は、新しい土石流によるデブリ堆積面、古い土石流段丘面、急傾斜の下部斜面のいずれかに分布が限定された。デブリ堆積面には攪乱の新旧に対応して過去8年間での加入個体を含む主に小径個体が分布し、段丘面と下部斜面には樹齢や発達状況が異なる個体が混在していた。

 多くの個体が林冠下にあり、幹の成長は遅く、過去8年間での枯死率は高かった。しかし被圧による成長の停滞は見られず新規加入幹も多かった。株構造は、初期は単幹である割合が高いが、直径に強く依存して萌芽率が上昇し、DBH 5.3cm(幹齢24.3年)で50%、約10cm(樹齢約50年)で90%に達し、萌芽本数も増加した。また斜面が急・地表面の礫被度が高いほど根系が地表に露出する割合が高く、そうした個体の萌芽率は相対的に高かった。根系露出の原因は斜面では土壌葡行、段丘とデブリ堆積面では洗掘と推定された。株の中では太い幹ほど斜面下方に傾いていた。サイズを考慮した成長速度は主幹、萌芽幹、萌芽を持たない単幹の間で特に差が無かった。

 以上のことからチドリノキは、地表が不安定な立地に適応し、大規模攪乱時にある程度まとまって定着するが同所的な更新も行い、緩慢な成長と、ontogeneticな反応と地表侵食への対応の両方による萌芽幹の生成によって適切に葉群配置を行いつつ延命していること、親幹から萌芽幹への資源転流や成長抑制といった幹間の相互作用は伺えないことがわかった。


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