| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-011  (Poster presentation)

半自然草地の利用が植生に及ぼす影響 ー 文化的景観と茅場の自然

*柳沢直(森林文化アカデミー), 柏春菜(Green Wood Work 協会)

 茅場は里山の利用形態のひとつであり、文化的景観の一部を構成している。人間による茅場の管理や利用が植生に与える影響を、中部地方のカリヤス、およびススキの半自然草地で調査した。調査は2009年に長野県木曽町の藤屋洞(ススキ草地)、岐阜県恵那市の馬木(カリヤス草地)、富山県南砺市相倉(カリヤス草地)、岐阜県白川町馬狩(カリヤス草地)の4箇所で行った。植生調査では、草地の内部と辺縁にそれぞれ7つずつ 1m×1mの調査枠を設置し、出現する植物種を記録した。また、萱場の管理者を対象に利用履歴についての聞き取り調査を行った。草地の利用目的は、藤屋洞が牛馬の餌、馬木が肥料および隣接する畑の日照確保、相倉と馬狩が合掌集落の屋根葺き材の供給であった。それぞれの茅場の管理は、藤屋洞が春の野焼きと刈取りを交互に行う隔年刈取り、馬木は隔年で秋に刈取り、相倉は6月にカリヤス以外の草を刈取り、9月に辺縁の草を刈り、10月にカリヤスの刈取りを毎年行い、馬狩は春と7月の雑草刈りと、10月のカリヤスの刈取りを毎年行っていた。
 この中で出現した植物の種数が最も多かったのが馬木の97種、次いで藤屋洞の55種と相倉の53種、最も少なかったのが馬狩の44種であった。草地に特徴的に生育する植物については、2年に一度の刈り取りである馬木と藤屋洞では、それぞれ22種、21種と多かったのに対し、毎年刈取りを続けている相倉と馬狩では、それぞれ9種、5種と少なかった。相倉と馬狩は合掌集落の屋根葺き材として良質の茅を生産するため、茅の割合を高める管理が行われていることが、種数が少ない一因であると思われる。逆に馬木と藤屋洞では、刈取った草を肥料や家畜の餌として使っているため茅だけでなく、多様な草本の混入が容認されている。こういった用途と植生の間には関連があり、人間の生業が里山の文化的景観を形作ると共に、生物多様性にも影響を与えていることが明らかになった。


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