| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-014  (Poster presentation)

気候の年々変動と長期トレンドのもとでの生物の分布の動態モデル

*竹中明夫(国立環境研究所)

大気中の温室効果期待の濃度上昇にともなって進行中と考えられている気候変動は、生物の分布域の変化を引き起こすと予想されている。この変化を検出するには、トレンドがない場合の分布の動態の理解が前提となる。そこで、過去の温度データをもとに、長期トレンドがある場合、ない場合で生物の分布域はどのような動きを見せるのか、単純なモデルを使って検討した。
モデルでは、緯度方向の温度勾配がある1次元の空間中に生物が分布していると考える。生物は毎年、種に固有の分散距離の範囲内で分布を拡大する一方、生育可能温度範囲外の個体はただちに死亡するとした。気象庁が提供する国内16個所の約100年にわたる観測所の月ごとの気温データから年間の温度の指標を計算した。高緯度側の分布限界は最寒月平均気温で制限されるとし、低緯度側の分布限界は最暖月平均気温で制限されるとした。また、各観測所から高緯度・低緯度方向の距離に比例して温度が低下ないし上昇するとした。
連続する2年の間の温度の変動の絶対値は、長期の温暖化トレンドの変化率よりも2桁程度大きなものであった。シミュレーションの結果、生物の分散能力が高い場合にはこのランダムな温度変化に追随した分布の拡大・縮小が見られた。一方、分散能力が低い場合、高緯度側では冷涼な年に低緯度側に縮小し、その後に徐々に高緯度側へ拡大するパターンが見られた。このコンスタントな分布拡大は温暖化トレンドの反映のように見えるが、ランダムな温度変動により生じるもので、気温データから長期トレンドを除去してもほぼ同様のパターンが再現された。また低緯度側では、生物の分散能力が低い場合、暑い年に高緯度側に縮小した分布がその後徐々に低緯度側へ拡大する、一見すると温暖化トレンドに逆行するパターンが見られた。以上の結果はコンスタントな分布の拡大パターンを短絡的に気候変動の反映と結論できないことを示している。


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