| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-019 (Poster presentation)
種の分布の決定機構の解明は生態学の主要課題である.広域スケールにおいては,気温や降水量といった気候条件が樹木種の分布を規定しているが,その機構は明らかではない.一方,種の持つ機能形質は資源の獲得,維持といった資源の利用戦略を規定し,ある環境での適応度に影響する.したがって,種の分布の違いは種の機能形質の違いを反映していると期待される.
既存データのメタ解析を行い,日本産樹種179種の分布情報と機能形質のデータを収集した.これらの種それぞれにおいて,日本列島の気温と降水量に沿った分布パターンを定量化し, 炭素,栄養塩,水の利用に関わる葉や材の機能形質との関係を検討した.
179種のうち,80%の種の分布は気温に規定されており,その内85%の種が特定の気温で出現確率が最大になるパターンを示した.これらの分布パターンは,炭素や栄養塩の資源利用を反映する形質と結びつき,葉と材の耐久性が低く,光合成能力の高い種は,より気温の低い地域で出現確率が最大になった.また,炭素や栄養塩資源の利用戦略において,耐久性と生産性に関わる形質は種間でトレードオフの関係を示した.
以上の結果から,1)炭素や栄養塩の資源利用に関わる機能形質が気温に沿った樹木種の分布パターンを規定している,2) これらの形質間における「生産性ー耐久性」の生理生態学的トレードオフが種の分布の多様性,ひいては日本列島全体の樹木種の多様性に貢献していることが示唆された.