| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-022 (Poster presentation)
シカの過採食は森林下層植生の衰退や消失をもたらしているが、長期間にわたる樹皮剥ぎは低木層の成長や生存にも影響を及ぼしていると思われる。本研究では冷温帯落葉広葉樹林の毎木調査データを解析し、どのような地形のどのような樹種で衰退の傾向が見られるかを明らかにすることを目的とした。京都府北東部に位置する芦生研究林のマスカミ谷の尾根部、斜面部、谷部に設置したそれぞれ1haのプロットで、1991年より5年毎に25年間、胸高直径5cm以上の樹木のべ3129個体を対象に毎木調査を継続した。初回の調査時には一部(1452個体)を対象に樹高も測定した。樹高データをクラスタリングしたところ、3つの正規分布の混合と仮定した場合が最もあてはまりがよかったので、これらを低木層・亜高木層・高木層と仮定し、樹種毎に求めた胸高直径と樹高の回帰式から各測定時の個体を各層に振り分け、個体数の多い優占樹種について各層の個体数を集計した。胸高直径と生死データから樹種毎に一般化線形混合モデルを構築し、直径成長量と枯死率の変化を確認した。また、非計量多次元尺度構成法(NMDS)を利用して、25m四方のサブプロット単位で種構成の変化を視覚化した。
スギ、ブナ、コハウチワカエデでは、各層の個体数が安定的に推移していた。リョウブ、ハクウンボク、エゴノキ、ウリハダカエデ、ツリバナでは、斜面部と谷部で低木層の個体数減少が目立ち、直径成長量の減衰と枯死率の増加が認められた。リョウブとツリバナはシカによる樹皮剥ぎが高頻度で観察されている。また、同地域で行われた調査では、リョウブ、エゴノキ、ウリハダカエデは若木の当年生シュートがシカに被食されている度合が高いことも報告されている。NMDSの結果は斜面部と谷部で種構成が大きく変化したことを示しており、調査地ではこの25年間で斜面部と谷部の低木層がシカの影響で衰退したことが示唆された。