| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-029  (Poster presentation)

サロベツ泥炭採掘跡地における遷移上でのミズゴケ侵入様式

*露崎史朗, 李茜, 宮崎紀子(北海道大学)

  ミズゴケ湿原は、その特殊な環境から生物多様性を高める機能を持つ一方で、土地改変や商用利用のために減少の一途を辿っている。そのため、ミズゴケ湿原の再生機構を知ることは生態系復元のためには不可欠である。日本最大の高層湿原である北海道北部のサロベツ湿原では1970年-2003年に商用目的に毎年数ha規模で泥炭採掘が行われていた。採掘跡地における遷移系列は、裸地(以降BG)にミカヅキグサ草地(RA)が発達し、ついで、ヌマガヤ草地(MJ)となる。一方、同一採掘年の跡地でもBG, RA, MJが同所的にみられることもある。これらのことは、遷移の方向は一定でも速度が地域間・内で異なり、ミズゴケの侵入定着が局所的なものに留まっている要因と考えられる。
  ミズゴケの定着状況と定着規定要因の特定を目的に、1972年採掘跡地において植生および環境(光・温度・泥炭水分量・泥炭水水質・リター)を調査した。BG, RA, MJおよび未採掘地(SP, 対照区)に各18個の50 cm × 50 cm方形区を設置し2015-2016年に調査を行った。2014-2015年にMJに方形区を50個設置し同様の調査を行い、加えてクランプ法とNDVI計によりミズゴケの成長量を測った。
  (1) 種数は遷移の進行に伴い増加するが、ミズゴケの定着は裸地・ミカヅキグサ草地では認められなかった。(2)ミズゴケはヌマガヤ草地内にパッチ状に定着していた。(3) ヌマガヤリターが堆積するかヌマガヤ被度の高い方形区内でミズゴケ定着が良好に認められた。しかし、リターが厚いとミズゴケの被度・伸長量はともに低くなった。(4)ミズゴケの定着と水質の間には、光と比べると明瞭な関係は認められなかった。
  以上のことから、ミズゴケ定着には光環境が重要であり、リター堆積が進行していないヌマガヤ草地、あるいは、ヌマガヤ植被の低い草地においてミズゴケの侵入定着が最も促進されていることが明らかとなった。したがって、ミズゴケ湿原再生にはヌマガヤ草地の創出は必要だが、その群集構造をも考慮する必要がある。


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