| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-031  (Poster presentation)

大峯山脈前鬼の針広混交林における実生・稚樹と林冠木の種構成の差異

*松井淳, 辻野亮(奈良教育大学)

 奈良県南部に位置する大峯山系前鬼地区の針広混交林に設置した1.08haの森林調査区において,2005年から2007年にかけて高さ50 cm以上の全樹木の胸高直径(DBH: diameter at breast height)または高さを計測し,10年を経た2015年から2017年にかけて再調査を行った.胸高断面積(BA: basal area)でみた優占種はツガ(36.5%),ヒメシャラ(11.6%),ミズナラ(10.8%),ブナ(9.8%)である(松井ほか 2011).また合計56 m2の調査区で樹木実生のセンサスを行った.
 2005年から2015年の10年間で,高さ130 cm以上の樹木幹数は1664本から1826本に増加したが,種数は63種から56種に減少した.アセビが244本から614本と大きく増加した他は,幹数は変わらないか減少した.BAは53.00 m2/haから51.91 m2/haに若干減少した.
 高さ50 cmから130 cmの低木層では,幹数は10年間で601本から574本に減少したが,それぞれ84.5%と73.3%をアセビが占めており,低木のアセビが減少したことを示す.一方アセビを除く低木層は93本から153本に増加したものの密度はきわめて低い.実生センサスでは2015年までに新規の樹木実生は11609本発生し,優占種をふくむ林冠構成種の実生は供給されていることがわかった.
 以上より,前鬼地区の針広混交林では10年間で林冠を構成する樹種の種構成やBAはそれほど変化せず,幹数ではアセビが増加した以外はどの樹種も概ね減少傾向にあった.低木層は貧弱で新規実生からの加入が抑制され,林冠構成種の更新は順調ではないことが推測された.


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