| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-069  (Poster presentation)

冬季のクマイザサの葉の色素量や光合成能

*小野清美(北大・低温研)

クマイザサ(Sasa senanensis)は冬季に気温が氷点下に低下する地域にまで広く分布する常緑植物であり、積雪に覆われて越冬する。北海道大学低温研(札幌市)敷地内の林では上層の落葉樹が展葉し林床が暗くなる頃にクマイザサの当年葉の展開が始まった。そのため、林床が暗くなる前の春先に光合成を行えるように越冬葉が維持されることはクマイザサの物質生産によって重要であると考えられる。これまでに積雪が常緑植物の越冬に役割を果たしていることが幾つかの研究で示され、橋口ら(日本生態学会2013)も積雪が冬季の低温強光ストレスからクマイザサを保護していることを示した。本研究では複数年度、クマイザサの越冬における積雪の有無が光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)や葉の光合成系の色素量に与える影響を調べた。また、冬季のクマイザサの葉を野外から室内に移したときに、光合成能力(二酸化炭素吸収能力)を示すのかを調べた。Fv/Fmは上層木落葉後次第に低下し、雪上の葉では大きく低下したのに対し、雪下の葉では低下が抑えられた。クロロフィルa/bには大きな変化は見られず、積雪の有無による差は見られなかった。キサントフィルサイクルの色素量は上層木落葉後次第に増加し、雪上の葉ではそのまま増加する傾向が見られたが、雪下の葉では増加が抑えられたり減少したりした。キサントフィルサイクルの色素の脱エポキシ化の割合は上層木落葉後に大きく増加し、雪上の葉では高いまま保たれた。雪下の葉ではばらつきが大きいものの雪上の葉より低くなった。このように積雪がクマイザサの越冬時に強光・低温から葉を保護していることが複数年度の結果でも示された。また、全ての葉ではないが、水切りして室温におくと徐々に光合成速度は増加したことから、冬季においてもクマイザサの葉は光合成能力を保っていることが示された。


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