| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-074  (Poster presentation)

カラマツ・トドマツ苗の土壌乾燥に対する通水およびガス交換特性の反応

*原山尚徳(森林総研北海道)

北海道の主要な造林樹種であるカラマツとトドマツの植栽苗について,渇水による樹木枯死要因の一つである通水阻害メカニズムを明らかにするため,幹および当年生シュートのvulnerability曲線を作成するとともに,ポット苗を用いた土壌乾燥−再灌水実験を行った。幹と当年生シュートのvulnerability曲線を比較すると,両樹種ともに,水ポテンシャルの低下に対して当年生シュートよりも幹のほうが通水阻害を起こしづらかった。樹種間で比較すると,幹ではトドマツのほうがカラマツよりも通水阻害を起こしづらかったが,当年生シュートでは樹種間差が小さかった。幹および当年生シュートの通水性を88%失うときの水ポテンシャル(P88stem,P88shoot)は,カラマツではそれぞれ-4.51 MPa,-1.56 MPaだったのに対し,トドマツではそれぞれ-7.36 MPa,-2.12 MPaだった。2ヶ月間十分に水やりしたポット苗に対し8月に灌水を停止し,水ポテンシャルおよびガス交換速度の経時変化を,枯死発生まで測定した。トドマツよりもカラマツのほうが,水ポテンシャル,ガス交換ともに急激に低下した。明け方の水ポテンシャルが各樹種のP88stem達するまでにカラマツでは30日かかったのに対して,トドマツでは50日以上かかり,枯死もこれと同じ時期に発生した。カラマツでは灌水停止から10日程度で気孔を閉鎖し光合成速度はほぼゼロになったが,トドマツでは同様の状態になるまで30日程度かかった。土壌乾燥実験で得られた水ポテンシャルと光合成速度の関係は,両樹種ともに当年生シュートのvulnerability曲線と非常によく似ており,乾燥ストレスに対する針葉の通水性低下と光合成低下の密接な関係が示唆された。枯死寸前の一部個体に再灌水し,回復するか枯死するかの水ポテンシャルの閾値を調べたところ,P88stemとほぼ同等の値を示した。これらの結果から,カラマツおよびトドマツ苗の土壌乾燥による樹木枯死は,幹の通水性が88%失うときに発生することが示唆された。


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