| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-077 (Poster presentation)
コブシ,ケヤキ,ミズナラ,コナラ,クリ,ブナ,シラカンバ,ミズメの苗木において,相対光強度の変化に対する葉の解剖学的形質としての葉肉細胞の厚さおよび光合成機能としての飽和光合成速度における性質変化の可塑性ついて検討した。その結果,シラカンバを除く7種では,解剖学的形質と光合成機能が同一の可塑性を示し,可塑性が大きい樹種がケヤキ,ブナ,ミズメ,中庸な樹種がコブシ,クリ,小さい樹種がミズナラ,コナラと相対区分された。それに対し,シラカンバは,解剖学的形質と光合成機能が正反対の可塑性を示し,解剖学的構造の可塑性が小,光合成生産能力の可塑性が大であった。厚い葉の生産コストは高いので弱光下で厚い葉を維持するのは不利(小池,2004)であることから,強度被陰下で厚い葉を展開することは,葉の生産コスト抑制という観点からのリスクが大きい。反面,厚い葉ほど光合成生産力は高くなる(Terashima et. al.,2001)ことから,光合成生産の低下抑制という観点からのベネフィットは大きい。シラカンバを除く7種では,被陰に対して,解剖学的形質と光合成機能が同一の可塑性を示すことから,リスクとベネフィットという観点に立てば,解剖学的形質と光合成機能の適応はトレ-ドオフの関係を示すと考えられ,解剖学的形質および光合成機能が一方のリスクを他方のベネフィットで補完する適応を示すのに対し,シラカンバは,相対光強度低下に対して,解剖学的構造の可塑性が小さく葉の生産コストが大きくなるにもかかわらず,光合成生産機能の可塑性は大きく光合成生産力が大きく低下してしまうことから,葉の生産コスト,光合成生産のいずれにおいてもリスクだけが大きくなる極めて不利な被陰応答を示していると考えられる。このことから,シラカンバが個葉の生理生態的観点からも被陰に弱い樹種であることが確認されたと考える。