| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-080 (Poster presentation)
都市域の高層ビル周辺では、風に強いとされる常緑樹が防風植栽として利用される。しかし都市域の風環境は複雑かつ劣悪であるため、異常落葉等の樹木の衰退により本来持つべき枝葉の風速低減効果が発揮されない場面がみられる。本研究では都市環境における風に対する樹木の応答を、形態的変異と合わせ水分生理学的側面から明らかにすることを目的として調査を行った。
対象木は東京都内の高層ビル周囲に防風を目的として植栽されたタブノキである。対象木は周囲の風環境と対象木の健全性より、恒常的に風が弱く突風もない環境下の健全木(以下:微風健全木)、恒常的に強い風が吹くが突風は少ない環境下の健全木(以下:常風健全木)、及び、恒常的には弱い風であるが突風が頻発する環境下の衰退木(以下:突風非健全木)の3タイプに分類された。形態的変異として、突風非健全木では枝の伸長抑制や葉面積の縮小がみられた。
3タイプの葉の水分生理特性を明らかにするために調査対象木の切り枝を持ち帰り、PV曲線法によりいくつかの水分生理パラメータを取得した。加えて、風を受けた際の葉の生理調節機能を明らかにするために、切り枝を用いてLI-6400でFlow Rateを変化させ、気孔コンダクタンス、蒸散速度、光合成速度等のパラメータを取得した。
その結果、常風健全木では微風健全木に比べ葉の耐乾性が高くなる順化反応および、葉が強風を受けると即座の気孔調節によって水分損失が抑制され光合成水利用効率が高まる回避反応がみられた。これらの特性は恒常的に風を受けることによって獲得され、樹体の健全性に寄与したと考えられる。
一方、突風非健全木は葉の耐乾性が低く、強風を受けても気孔調節等の回避反応がみられなかった。このように恒常的に弱い風環境下のタブノキは強風に対する適応が不十分なため、突風が頻発することによって過蒸散が起き、枝葉の成長が抑制され、樹体全体の健全性の低下に繋がったと考えられた。