| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-086  (Poster presentation)

鉱山跡地に自生するアゼスゼ( Carex thunbergii )の重金属耐性機構

*田中翔大(筑波大・生物資源), 山路恵子(筑波大・生命環境系), 春間俊克(筑波大院・生命環境), 中本幸弘(筑波大院・生命環境), 北条友貴(筑波大院・生命環境), 土山紘平(筑波大院・生命環境)

 調査対象地である鉱山跡地の中腹の沼には、年間を通じてカヤツリグサ科スゲ属のアゼスゲが繁茂することが確認され、何らかの重金属耐性機構を有していると推察された。近年、植物に感染する内生微生物がシデロフォアを産生することで重金属耐性に関与していることが知られている。そこで本研究では、内生微生物の関与を考慮しつつ、現地に生育するアゼスゲの重金属耐性機構に関する基礎的知見を獲得することを目的とした。
 誘導結合プラズマ発光分光分析装置による元素分析の結果、根域土壌にはCd、Pb、Zn、Cuが一般的な土壌に比べ、高濃度に含まれていることがわかった。植物体では、不定根にFeが一般的な植物における含有濃度よりも高濃度に含まれていることが確認された。調査地は浸水環境であり、土壌が還元状態になっていると推測され、Feが易溶性のFe2+として存在していることが、高濃度蓄積の一因であると考えられた。Fe以外の重金属元素濃度は、特に高い値は示さなかった。したがって、アゼスゲは体内でのFeの解毒機構を有していると考えられた。また、Feは吸収において様々な重金属元素と拮抗的な関係にあることが知られており、Feの過剰吸収が、その他の重金属元素の吸収を抑制した可能性が示唆された。        
  トリパンブルー染色を施した不定根を観察した結果、内生糸状菌の感染率は、0.27±0.27 % と低い値であった。アーバスキュラー菌根菌の感染は確認されなかった。そのため、内生細菌に着目し分離を行ったところ、分離により出現したコロニー数は1 % NBA培地では約315、1 % TSA 培地では約275であった。現在、全分離菌株のシデロフォア産生能を精査しているが、試験株の中にシデロフォアを産生するものが確認されている。内生細菌の本機能は、アゼスゲ体内でのFeの解毒に付加的な作用を示す可能性が示唆された。


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