| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-089  (Poster presentation)

光合成光阻害回避能力における緯度間・標高間種内変異

*小口理一, Bender, Lukas(東北大学 院 生命科学)

光は光合成・物質生産に欠くことの出来ないエネルギーだが、強すぎる光は光合成器官に損傷を与え、光合成の低下を介した成長悪化をもたらす。この光阻害と呼ばれる現象は生理学的にはよく知られており、阻害メカニズム自体の解明には至っていないものの、回避機構については、葉緑体移動による余分な光吸収の回避、熱による余剰光エネルギーの消散、余剰エネルギーによって生じる活性酸素の消去、光化学系修復等、多くの知見が蓄積されて来た。植物がこれだけ多くの光阻害回避機構を進化させたことは、光阻害耐性にそれだけ強い淘汰圧がかかってきたことを示唆する。
 しかし、光阻害が種分布や種分化にどのように影響してきたかという知見は乏しい。これは、種分布を考察するような緯度の違いといった大きなスケールでの光強度の差よりも、太陽の動きや季節、林冠と林床といった狭いスケールで生じる光強度の差の方が大きいため、陽生植物が陰生植物よりも光阻害耐性が高いことは知られていても、それ以上の情報が集められてこなかったことが一因である。しかし、光阻害は光強度以外の環境要因によっても影響を受け、ストレスが強い環境ほど傷害が大きくなる。特に低温では、炭酸同化反応が遅くなるため、エネルギー利用が低下し、吸収した光エネルギーが余剰状態になり阻害を大きくする。さらに、損傷を受けた光化学系の修復速度が低温で低下するために、阻害が拡大する。つまり、寒冷地域ほど光阻害は強くなるため、低温でも高い光阻害耐性を持つ植物が選択されてきている可能性が考えられる。
 本研究では世界中の様々な標高や緯度から集められたシロイヌナズナエコタイプを用いて、光化学系修復能力の差を調べ、由来地の環境パラメーターとの関連の検出を試みた。


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