| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-096 (Poster presentation)
【はじめに】小笠原諸島・媒島では,著しい土壌流出によって,(1)強酸性,(2)貧栄養,(3)高い交換性Mg,といった植物生育にとって好ましくない特性を示す下層土が露出している.このことが植生回復の大きな障害となっていると考えられるが,このような土壌環境においても部分的に草本植物は定着している.本研究では,これらの草本植物の定着メカニズムを探るため,生育状況を植物栄養学的および土壌肥料学的に調査・解析した.
【材料および方法】媒島にて、コウライシバ,ギョウギシバ,スズメノコビエ,シマスズメノヒエ,ホウキギク,ツボクサ,ウスベニニガナを対象に,地上部を採取するとともに,生育地の表層土壌(0~5cm深)を採取し,化学分析を行った.
【結果および考察】媒島に生育するこれらの植物は,種ごとに体内栄養元素含量が異なった.NとPに関しては,コウライシバ,ギョウギシバ,スズメノコビエ,シマスズメノヒエは貧栄養的であり,ホウキギク,ツボクサ,ウスベニニガナは富栄養的であった.また,媒島における異常に高い土壌中交換性Mgに対する反応としては,(1) Mg吸収量をある程度低く抑えることにより適切な体内Ca/Mg比を維持しようとするタイプ(コウライシバ),(2) Ca吸収量を増加させ適切な体内Ca/Mg比を維持しようとするタイプ(ホウキギク,ツボクサ,ウスベニニガナ),(3) Ca/Mg比を低下させるタイプ(ギョウギシバ,スズメノコビエ,シマスズメノヒエ)に分けられると考えられた.また,ギョウギシバは比較的土壌酸性が強くても分布するのに対し,ツボクサは土壌酸性が強い場所には分布しにくいと考えられた.一方,土壌の全N含量や可給態P含量は,本研究で対象とした草本植物の分布と強い相関関係は認められなかった.このことから,とくにホウキギク,ツボクサ,ウスベニニガナは,土壌中のNとPの可給性が低くても,これらを吸収する能力が高いと考えられた.