| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-100 (Poster presentation)
生態系を構成する生物個体サイズには極めて大きな幅があり、多様な系統の大小生物個体に流入するエネルギーが生態系の構造と機能を駆動している。植物ではサイズ幅は重量で1兆倍にも及び、こうした個体の呼吸 (エネルギー利用)はそのサイズとともに変化し(metabolic scaling)、重量の3/4乗倍に比例するとされる。このエネルギー利用のサイズに応じた制御メカニズムは、WBEモデル(生物個体内部の循環構造からの理論)、DEB(動的エネルギー収支理論)など様々な理論で説明が試みられ、今も議論が続いている。しかし、いずれの理論も部分測定値から個体呼吸を推定して構築され、十分な実験による検証は行われていない。さらに、系統や環境によりscalingに違いがあるかについても結論は無く、これは広いサイズで多数の個体呼吸の実測が無いことに一因がある。
そこで我々は、広いサイズ(数mgの芽ばえ~樹高35m直径1mの大木)の生物個体全体の呼吸を迅速、正確に実測できる装置を開発した(Mori et al. 2010)。測定個体重量幅は約1000億倍、測定数は約1000を超え、最も包括的なデータベースを構築した。測定材料を以下に示す。【陸域】:維管束植物(シベリア~熱帯の樹木、草本類、つる植物、施肥、無施肥の作物、タケ類、シダ類)、コケ類、菌類(担子菌子実体)、【水界】:水流で揺らいで生育する沈水植物(維管束植物)、海産藻類(緑藻、褐藻類)。
その結果、大スケールで水界~陸域のmetabolic scalingを見た場合、すべての陸域生物は系統を越え「個体呼吸は重量の約0.8乗倍(3/4乗倍より少し高い値)に比例」する傾向を示した。これら陸域生物は、重力を感知して上方に成長する生物である。一方、揺らいで生活する水界生物(沈水植物、藻類)は「個体呼吸はほぼ重量比例」であった。このように、これら scalingは系統を越えて陸域と水界でそれぞれ収斂する傾向が見られた。この収斂は、重力影響に関連した個体呼吸の物理化学制御から生じている可能性がある。