| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-216 (Poster presentation)
不妊虫放飼法(SIT)は、人工的に不妊化した害虫(不妊虫)を用いて、野外の害虫(野生虫)の繁殖を阻害し、根絶する防除法である。これまでの理論・実証研究によって、SITを用いて野生虫を根絶するためには、野生虫に対して十分な数の不妊虫を放飼する必要があることが示されている。しかし、不妊虫の生産頭数には限界があるため、防除の対象となる地域全体に生息する野生虫が非常に多い場合、十分な数の不妊虫を放飼することは難しい。この場合、最初に不妊虫を放飼する地区(以下、放飼区)を空間的に限定し、局所的に野生虫を根絶した後、隣接する地区での放飼を行い、これを繰り返すことで、野生虫の全域的な根絶を目指す方法が考えられる。本研究では、一次元上に複数の生息地をもつ個体ベースモデルを用いて、上記の方法で野生虫の全域的な根絶が可能になる条件を調べた。また、野生虫及び不妊虫の生活史(死亡・分散・繁殖)のパラメータについては、現在沖縄県でSITを用いた根絶防除が行われているアリモドキゾウムシ, Cylas formicarius(以下、アリモ)及びイモゾウムシ, Euscepes postfasciatus(以下、イモゾウ)のものをそれぞれ適用した。その結果、イモゾウのような分散率の小さい害虫は全域的な根絶が比較的容易であった一方、アリモのような分散率の大きい害虫を全域的に根絶することは難しいことが示された。これは、非放飼区から放飼区への野生虫の流入によるものと考えられる。そこで、上記のモデルに、密度抑圧防除(野生寄主の除去など)による野生虫密度低下の影響を合わせて考慮した。その結果、放飼区と隣接する非放飼区において密度抑圧防除を行うと、野生虫の放飼区内への流入数が大きく減少し、アリモのような分散率が大きい野生虫でも全域的に根絶可能になることが示された。