| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-270 (Poster presentation)
侵略的外来種は生態系に大きなインパクトをもたらす。日本をはじめ世界の多くの地域では、外来種が潜在的にもつ侵略性の評価が行われ、それに基づいて効率的な外来種管理がなされている。しかし、こうした管理策は侵略性の過小評価により深刻な問題を引き起こすことがある。ここでは、これまで小笠原諸島において侵略性が全く認知されていなかった外来リクヒモムシによって引き起こされた、土壌生態系の衰退をその例として示す。
この陸生ヒモムシは熱帯域に広く分布している生物であり、節足動物への捕食はこれまで報告されていなかった。しかし実験の結果、幅広い節足動物への捕食を行うことが確認された。もともと小笠原の土壌生物相は本来ワラジムシ目、次いでヨコエビ目が優占していたが、今回調査を行った母島南部ではヒモムシ侵入域においてこれらの生物がヒモムシの捕食により著しく減少していた。肉食性の節足動物もヒモムシの捕食の間接効果により同様に減少していた。
1980年代から父島で始まったとされるワラジムシ目の劇的な減少は、ほぼ同時期に小笠原に侵入したこのヒモムシによる捕食が原因であると考えられる。小笠原の土壌生態系はこのヒモムシによりすでに深刻なダメージを受けている。陸生ヒモムシに著しい侵略性が発見されたのはこれが世界で最初の報告となる。本研究は外来種の脅威を認識することの限界と、それに伴う保全上の問題点を提起する。