| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-01 (Poster presentation)
カスミサンショウウオは小型の止水性サンショウウオで,分布域の北東端にあたる岐阜県では,岐阜県版レッドリスト絶滅危惧1類で,生息地はわずかに2ヶ所のみであった。2016年3月,専門家による30年の調査により3ヶ所目の生息地が発見され,保護すべき生息地が見落とされている可能性が示唆された。一刻を争う絶滅危惧種の新規生息地発見には,迅速かつ効率的な手法が不可欠であると考え,我々はGIS(地理情報システム)と環境DNAを組み合わせた生息地推定法を考案した。GISを用いて地形や植生の情報を階層的に解析し,既知生息地の環境に類似した5地点を選出した。これらの候補地で採水を行い,環境DNAを解析して,カスミサンショウウオの生息の有無を判定した。解析の結果,5ヶ所の候補地のうち1地点でカスミサンショウウオに特異的なDNAが検出された。その後,より詳細な現地調査により本種の卵嚢1対を確認し,4ヶ所目となる生息地の発見に成功した。我々の研究により,GISと環境DNAを組み合わせる手法で,1年という短期間で希少生物の新規生息地を発見できることが世界で初めて示された。
さらに,現在の個体群を保護するために,過去の生息状況を探ることは有効であると考え,博物館や図書館で標本や地形図を捜索し,GISを用いて土地利用の変遷から過去と現在の環境を比較した。また,現在の生息地環境を評価するため,MaxEntを用いて生息適地モデルを作成した。環境の変化が生息に及ぼす影響を予測するため,気温上昇予測を活用した未来予想を行った。標本と地形図を用いた解析の結果,生息に必要な植生(水田,竹林)の割合が減少していることが分かった。また,生息適地モデルの作成によって,岐阜県には比較的生息に適した環境が少ないことが分かった。さらに,未来予想の結果,気温上昇によって,カスミサンショウウオの生息に適した環境が減少するおそれがあることが分かった。