| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-10  (Poster presentation)

ボルネオオランウータンの代理母は子供の面倒をみるのか?〜血縁の有無が母子関係に与える影響〜

*黒田峻平, 田村祐也, 山根柊聖, 越川峻乃介(海城中学高等学校)

 東京動物園協会の多摩動物公園では、育児放棄されたボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus、以下オランウータン)のチェリア(メス,3歳)に代理母としてジュリー(52歳)をあてがうという日本初の試みがされている。この試みにより、血縁の有無による母子関係の差を調べることで育児放棄された個体への方策として代理母が効果的か提案できると考えている。
 過去に行った研究でチェリアが母親と近接(<2m)している割合を調べ、アピ(オス,当時3歳)とリキ(オス,当時4歳)の割合と比較したところ、チェリア(当時2歳)が45%であったのに対し、アピとリキはそれぞれ24%,16%とチェリアが高い割合を示した。しかしこの研究は比較した3個体の年齢が一致していないという点で課題を残した。
そこで本研究では、「3個体が2歳の時、母親と近接した割合はあまり変わらなくなる」という仮説を立て、チェリア、アピ、リキの3個体の生後29か月~39か月の区間において母親と近接していた割合の比較を行った。その結果、近接している割合が、アピとリキはそれぞれ24%,33%であったのに対し、チェリアが51%であり、同じ年齢においてもチェリアの近接割合は高い値であったことから、2歳の時の母親と近接した割合には違いがあった。この結果からではジュリーのみがチェリアと接近したがり、チェリアにとってはジュリーがお節介焼きとなっている可能性も考えられる。
 そこで、チェリア(生後36か月~39か月),アピ(生後41か月~44か月),リキ(生後60か月~63か月)において、親子で接近・離反した回数のうち、母から接近・離反した割合及び、子から接近・離反した割合を調べた。その結果、子供から接近・離反した割合がアピは72%、リキは73%、チェリアは84%となった。つまり3個体とも子供から母親に接近・離反することの方が多かった。以上より、チェリアの代理母であるジュリーは今のところ十分に母親としての役割を果たしていることが考えられる。


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