| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-41 (Poster presentation)
秋田平野をとりまく丘陵地には、谷を堰き止めた古いため池が数多く存在する。ため池には貴重な種から構成される水生植物群落が成立し、これまで環境省の重要湿地などに指定されてきた。しかし過去の航空写真の判読から、多くのため池でハスなどの浮葉植物群落の大幅な拡大が確認されており、近年、著しい環境変化が起こった可能性がある。本研究では秋田平野のため池群を対象に、①水生植物の分布の現状、②種と環境条件との対応関係、③埋土種子集団について明らかにし、ため池の保全・再生に資することを目的とした。
対象とした7つのため池で、水生植物の分布状況を調査した。49の調査区を設定し、植物の被度と水深、泥厚、水温、pH、EC、DOを計測した。得られたデータから相関分析とCCAを行い、種の分布と環境条件の対応関係を解析した。また底泥を採取し、種子選別等により埋土種子集団を把握した。
7つのため池で、全36種の水生植物が確認された。浮葉植物が単一で優占するため池が多く、沈水植物の分布は極めて局所的であった。とくに秋田市の天然記念物の待入堤では、かつて33種の水生植物が確認されたが、その約7割を確認できなかった。環境条件の解析の結果、浮葉植物の分布と泥厚、DOに対応がみられ、水底に泥が堆積し、嫌気的な環境へと変化したことが浮葉植物の拡大要因のひとつと考えられた。また底泥からの種子選別により5種、発芽試験により1種の発芽が確認された。このうち4種は、最近3年間でため池から消失した種であった。
本研究により、秋田平野のため池群の水生植物の多様性の低下と環境条件の劣化が把握された。ため池の水底には、過去に生育した希少な種を含む水生植物の埋土種子が含まれている。劣化したため池の環境を改善するためには、こうした水底の埋土種子を活用することや泥さらいを行うことなどが有効と考える。