| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S01-6  (Presentation in Symposium)

水生植物の保全・管理における適応進化の視点

*西廣淳(東邦大・理)

絶滅危惧種の保全と外来種の管理のそれぞれにおける進化生物学的視点の重要性を、これらの問題が特に顕著な、河川や湖沼などの陸水生態系を例に説明する。個体群の絶滅は環境の変化に進化的変化が追随しきれないために生じる。霞ヶ浦の湖岸湿地の植物を対象とした研究では、多くの植物が降水量に応じた水位の季節変化に適応した発芽特性を有していることが示された。同時に、水害の防止や水利用のために水位が改変された現在の湖沼では、これらの植物の個体更新において不適応が生じていることも示唆された。また外来生物の問題は、現在の社会-生態システム、一部の外来種の進入を許容・促進し、かつそれが「問題」なるような特徴を有していることで生じた現象と捉えることができる。印旛沼において治水・利水上の問題を生じさせているナガエツルノゲイトウは、富栄養化や水位の安定化という人為的環境改変を背景に繁茂した。また同種が治水上の問題となるのは、現在の洪水管理システムの脆弱性にも原因がある。私たちは、水辺の地形や水位変動など、生物進化の「舞台」のあり方まで改変する力を手に入れてしまった。単機能の短期的な効用にばかり着目するのではなく、さまざまな変化を経験してきた進化的背景を謙虚に学びつつ、今後の変化に追随できるような生態系や社会システムのあり方を慎重に模索することが肝要である。


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