| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
シンポジウム S06-4 (Presentation in Symposium)
陸域起源有機物と水域起源有機物が混在する、陸水域や海洋沿岸域において、生物の栄養段階を推定するためには、両者の混合割合を求める必要がある。なぜなら、陸域食物網と水域食物網とでは、アミノ酸窒素同位体比による栄養段階の推定式が異なるためである。
そこで本研究は、従来利用されてきたグルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比に加え、新たにメチオニンの窒素同位体比を測定することにより、陸域-水域混合系で生物の栄養段階を推定する方法論を開発した。フェニルアラニンの窒素代謝経路が、陸域の生産者(維管束植物)と水域の生産者(藻類)との間で大きく異なるのに対し、メチオニンの窒素代謝経路は、両者で大きな差がないと考えられる。この原理を利用し、河川の捕食性水生昆虫の栄養段階を(A)水域食物網で使われている従来法と(B)陸域・水域食物網の混合を考慮した新手法との間で比較した。
その結果、(A)ではおよそ栄養段階2(一次消費者に相当)という推定値が得られたのに対し、(B)ではおよそ栄養段階3(二次消費者に相当)という推定値が得られた。すなわち、河川の捕食性水生昆虫の栄養段階は、混合を考慮しない場合に、著しく過小評価された。他方、メチオニンを加えた三種類のアミノ酸窒素同位体比から、陸域・水域食物網の混合割合を求めることで、生態学的に妥当な栄養段階の推定が可能となることが分かった。
この新手法は、餌資源の同位体比を測定せずとも、研究対象の生物の栄養段階推定が可能という、従来法の利点を損なうことなく、かつその応用範囲を混合系へと拡張できるようになった点において、極めて画期的である。今後、メチオニンの窒素同位体比の測定法をさらに改良するとともに、さまざまな陸域-水域混合系で、この手法の有効性を検証していく必要があるだろう。