| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S13-3  (Presentation in Symposium)

日本列島の温帯林はいつ成立したか?—汎世界的気候変動と日本列島の形成から—

*矢部淳(国立科学博物館)

 南北に細長い国土をもつ日本列島は、亜寒帯林から亜熱帯林にいたる多様な植生を有している。最も広域を占める温帯林がいつ、どのような過程で形成されたかを理解することは、現代の日本列島における生物多様性の起源やその特異性を理解するうえで重要である。講演では、日本列島に現代的な属構成からなる温帯林が成立した歴史を、新生代の気候変化と日本列島の形成という観点から紹介したい。
 新生代初め頃の東アジアには、周極分布をする落葉広葉樹種と熱帯要素が混交した「Boreotropical Forest」と呼ばれる森林が広がっていた。この森林は多くの絶滅グループを含み、対比される現生植生が存在しない。暁新世/始新世境界付近(約5500万年前)をピークに気候は極めて温暖で、北海道に暖温帯林が、九州付近には亜熱帯林が広がった。この森林が現代化する過程には、世界的な寒冷化が大きく影響した。最初は始新世中頃から始まった寒冷期で、始新世/漸新世境界期(約3400万年前)に特に顕著な気温低下があった。その後、約1600万年前の一時的な温暖期に南からの侵入が見られたが、つづく寒冷期には構成種の現代化とともに構成割合の現代化も確認され、日本の冷温帯林と暖温帯林の原型がこの時期形成された。一方、漸新世末まで日本列島はユーラシア大陸の一部であったため、化石群集の構成には大陸と高い共通性があった。中新世初期(約2000万年前)から日本海が拡大し日本列島が大陸から分離すると、その後の属種構成には明確な違いが現れた。中新世後期から鮮新世初期(約500万年前)に再び西日本が大陸と地続きとなったため、日本列島に残存していた“第三紀要素”には、寒冷化によって大陸に拡散したグループもあったと推測される。鮮新世後期(約300万年前)以降、再び大陸と切り離され、山地形成や激しい気候変動の中で列島内部での種の現代化がさらに進行した。


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