| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
シンポジウム S13-4 (Presentation in Symposium)
度重なる陸橋・海峡の形成によって成立した日本列島に見られる哺乳類相は、氷期の陸橋を通じて大陸から渡来した動物群によって形成されてきたと考えられる。よって、日本列島と大陸の間の共通種や近縁種を比較しながら、かれらの生物地理的歴史を明らかにすることは、日本周辺の古環境の変遷を考えるうえでも重要な情報を与えてくれる。その共通種の1つとして、食肉目クマ科のヒグマ(Ursus arctos)をあげることができる。ヒグマは、ブラキストン線の北方である北海道,南千島、サハリン、および北半球北部に広く分布する。これまでに演者らは、北海道、周辺の島々、大陸のヒグマについて、母系遺伝子と父系遺伝子の系統地理学的研究に取り組み、北海道ヒグマの特徴が世界レベルでヒグマの進化を研究するうえで重要な鍵となることを見出した。本講演では、明らかになったユーラシア広域の遺伝的な集団構造、ならびに北海道ヒグマの渡来史について紹介する。
一方、ブラキストン線より南方の本州・四国・九州には、いくつかの日本固有種が分布している。その中の1種が食肉目イタチ科のニホンアナグマ(Meles anakuma)である。そして、それに近縁な同属3種がユーラシア大陸に分布している。演者らは、これら4種の系統地理的特徴ならびに種分化に関する研究に取り組んできた。その結果、ニホンアナグマの独立性が示され、日本列島での地理的隔離が種分化を引き起こしたことが明らかとなった。さらに、母系・父系・両性遺伝子解析および古代DNA分析を導入することにより、アジアアナグマ(M. leucurus)とヨーロッパアナグマ(M. meles)の分布域が大陸内で時代を経て変遷したこと、さらに、両種の現代の分布境界域において雑種化が進んでいることが示唆された。以上の成果についても紹介したい。