| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
シンポジウム S13-5 (Presentation in Symposium)
「地震列島」や「火山列島」とも称される日本列島は,第四紀以降の今なお活発な地殻変動が展開されている。第三紀のユーラシア大陸からの離裂,しかも東日本と西日本が異なる回転軸での独立的な離裂など,列島形成史そのものが極めて複雑である。加えて,列島の原型が形成された後にも,「フォッサマグナ」の存在により,永い期間(15-5百万年前)に渡り東西日本が隔たれていたことも生物種群における分布域や遺伝構造に大きな影響をもたらした。また,第四紀以降の氷期-間氷期サイクルにおいては,陸橋を介した大陸との接続や分断が繰り返されるなど,本邦における生物相の成立プロセスや種や遺伝的多様性の創出プロセスを紐解くことは極めて難解かつ興味深い課題である。さらに,大陸由来の「大陸島」のみならず,大洋島(海洋島)も存在することや,これらとの二次的な接続など,さらに複雑化を引き起こすような要素もみられる。これらの要素は4つのプレートがぶつかり合う地域に位置する日本列島ならではのものでもあり,世界的にも類をみない異質な特徴と言える。このような日本列島を舞台に,地の利を活かした興味深い「生物地理学」を展開できる利点と捉えられることもできよう。しばしば,大陸島の生物相は「大陸の出店(サテライト)」的な表現で語られ,大陸から島への分隔や分散(downstream dispersal)による生物相の成立として捉えられることが多いが,高い種多様性が維持される日本列島においてはそれほど単純ではないことが明らかとなってきた。また,列島内で分化した系統や列島内のリフュジアから逆分散(back dispersal)したとされる事例も認められつつある。本講演では,分散力の低い昆虫種群に着目した,興味深い系統地理的現象を取り挙げて議論してみたい。