| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
シンポジウム S15-6 (Presentation in Symposium)
直近の国勢調査では調査開始以来はじめて日本の総人口が減少し、本格的に人口減少社会に突入した。当企画のターゲットの2030年における総人口(中位推計)は1.2億人を割り込み、65歳以上が31.2%を占める。急速な人口減少と高齢化が同時に進む影響が社会の様々な側面に現れはじめる時期である。野生動物管理における主要課題は捕獲による大型獣の分布域・生息数の抑制と住民主体の対策の普及であるが、今後の人口減少によって捕獲や対策の担い手不足の深刻化が懸念される。その先手を打つ形で、捕獲者育成、多様な主体の参入促進、人材育成プログラムなど担い手確保に向けた取り組みは既に多方面で行われている。これらの取り組みが成功すれば、現行の野生動物管理は2030年頃までに一定の成果を上げるかもしれない。しかし、人口減少と社会の縮小は2030年以降も容赦なく続き、2050年には無人化地域が約2割増加すると考えられている。今後数十年に渡って野生動物の分布域と生息数が今以上に拡大することは想像に難くない。一方、同じ時期の日本の総人口は1億人を割り込むと共に65歳以上が4割を超え、あらゆる分野・業態の人材不足が常態化すると考えられる。野生動物管理もその例外ではない。今より多い野生動物を今より少ない人手で抑え込むことは難しく、問題解決を担い手の増加に求めても無理がある。近年、社会的・政策的には野生動物(特に大型獣)の分布回復をネガティブに捉えてきた。その背景には「これまで」の野生動物と人間社会の関係を基準としてその管理が考えられてきたことによる。しかし、今後数十年続く人口減少社会では野生動物と人間社会の関係は大きく変わらざるを得ないだろう。それを見据え、野生動物の大幅な分布回復と人間社会の急速な縮小が同時に起こる状況に適応的なグランドデザインや野生動物管理の新たな枠組みを今から考え始める必要がある。