| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S16-7  (Presentation in Symposium)

海洋酸性化に対する低次生態系の応答

*鈴木光次(北海道大学)

化石燃料消費等により大気中の二酸化炭素濃度が年々上昇しており、その約1/3が海洋に吸収されていると考えられている。これに伴い、海水炭酸系の平衡状態が変化し、海水中の全炭酸濃度や二酸化炭素分圧が増加する。一方、海水のpHや炭酸カルシウム飽和指数が低下する。2100年には、海洋表層のpHは現在の約8.1から0.14から0.43程度低下すると予想されており、これを海洋酸性化と呼んでいる。海洋酸性化は、海洋生物の細胞内の膜輸送、石灰化、光合成、成長等に影響を与えることが報告されているが、海洋酸性化に対する生物応答は、生物の分類群毎により異なると考えられている。海洋の生態系の基盤を支え、また物質循環(生物地球化学)過程にも多大な貢献をしている植物プランクトンも海洋酸性化の影響を受けることが報告されている。一般に光合成の基質となる海水中の溶存二酸化炭素濃度が増加することにより、光合成活性が高まることが予想されるが、ほとんど影響を受けないもしくは低下する植物プランクトングループもいることが分かってきた。我々の研究グループでは、春季親潮域に生息植物プランクトン群集に対して、4つの異なった海水中の二酸化炭素分圧(180, 350, 750, and 1000 µatm)で船上培養を行い、同群集中で優占していた珪藻類の光合成炭素固定酵素RuBisCOの大サブユニットをコードするrbcL遺伝子の発現と組成を定量PCRおよび次世代シーケンシングにより解析した。その結果、より高い二酸化炭素環境において、Chaetocerataceae、Thalassiosiraceae、Fragilariaceaeの珪藻群集組成に対する寄与率が低下した一方、Bacillariaceaeの同寄与率が増加したことが示唆された。このような植物プランクトン群集組成の変化は、それらを餌とする動物プランクトン等より高次の捕食者の組成をも変化させる可能性がある。


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