| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
企画集会 T01-4 (Presentation in Organized Session)
生物多様性の地理的構造と、その起源と維持の機構を明らかにすることは、生態学や生物地理学の主要課題である。種の出現データが大量に利用可能になったことにより、近年は広域での生物多様性パターンを種の分布確率に基づいて定量的に予測できるようになった。しかしながら、生態学的変数としてより本質的な、個体数の観点から広域の生物多様性を理解する試みは未だほとんどなされていない。多数の種を対象として、広域にわたる個体数の調査を行うことは困難であるという実行上の制約が、この問題の解決を妨げている。
本研究では、日本列島における木本種の全国的な種個体数分布(SAD)と、メタ群集SADの形成・維持機構としての種分化過程の地域間変異を報告する。まず、計画的調査によって得られた局所的な種の反復出現データと、機会的調査や専門家の査定に基づく広域の在不在情報を統合して、広域のSADを推定する階層モデルを提案する。このモデルを、日本各地の自然林で行われた4万件を超える植生調査記録を中心としたデータセットに適用することにより、1248種に及ぶ木本種の個体数を10km四方の解像度で推定する。続いて、各地理メッシュで得られた個体数推定値を4つの生物地理的区分(北海道地域・北海道を除く日本本土地域・琉球諸島・小笠原諸島)ごとに集計して、メタ群集のSADを得る。各地域のメタ群集SADに種分化様式の異なる統一中立理論を当てはめることにより、各地域で一貫して適合するのはProtracted種分化モデルであり、点突然変異種分化モデルやランダム分裂種分化モデルは適合しないことを示す。また、モデルから推定される種分化率や種の期待寿命の値から、メタ群集の種多様性を特徴づける種の多様化と絶滅の平衡が地域間で大きく異なる可能性を指摘する。