| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
企画集会 T03-3 (Presentation in Organized Session)
多くの個体が関わる動物の集団行動は、時空間上にマクロなパターンを生み出す。中でも社会性昆虫の建設行動は、巨大な塚や複雑に張り巡らされた地下巣のように、洗練された構造物を形成する。社会性昆虫の建設メカニズムは、人間のものとは決定的に異なる。個体の行動は、設計図やリーダーの指示に従うのではなく、周囲の局所的な情報と各々が持つ単純な規則にのみ基づいており、個体間の相互作用の結果、全体の構造が形成される。これは自己組織化とよばれ、これまで様々な種の建設メカニズムが解明されてきた。一方で社会性昆虫の洗練された建設行動が、どのような進化プロセスを経て生じたかについては未だ多くの謎が残されている。
本研究では、シロアリの集団が作り出す蟻道に着目し、シロアリにおける構造物建設のメカニズムとその進化プロセスについて調べた。まず自然環境下において蟻道建設を行うヤマトシロアリに着目し、種内における様々な蟻道のパターンは、単一の行動アルゴリズムと個体の行動パラメーターの変化によって説明可能であることを示した。次に、系統的に祖先的で、自然環境下では蟻道形成を行わないオオシロアリとネバダオオシロアリの建設行動を定量した結果、これらの種も実験室条件では蟻道建設を行うことが明らかとなった。また、これらの種の建設行動ダイナミクスを計測したところ、建設行動の裏には多様な構造物を建設し得る行動アルゴリズムが関与することを見出した。以上から、現生のシロアリは同じ行動アルゴリズムを共有しており、シロアリの進化に伴う構造物の多様化は、共通した行動アルゴリズムのパラメーターチューニングによってもたらされたことが示唆された。