| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T07-2  (Presentation in Organized Session)

珪藻寄生性ツボカビの多様性および生態学的機能 -分類学的研究から動態解析へ-

*瀬戸健介(東邦大・理), 出川洋介(筑波大・MSC菅平), 鏡味麻衣子(東邦大・理)

ツボカビは、真菌類の一群で、後方一本鞭毛を持つ遊走子を生じることで特徴づけられる。菌界の中で原始的な系統に位置することから、真菌類の初期進化を考える上で重要なグループである。
寄生性ツボカビが、水圏の生産者である藻類の個体群動態に影響を与えることは古くから知られてきたが、近年のメタバーコーディング解析により、ツボカビが水圏の微生物群集の主要なグループの1つであることが報告され、ツボカビの生態学的役割が改めて関心を集めている。しかし、水圏におけるツボカビの多様性および生態学的機能の評価は未だ十分に進められていない。特に、メタバーコーディング解析により検出されたツボカビの大部分が正体不明であるという問題が生じている。
寄生性ツボカビの研究は、1800年代にまで遡り、これまでに400種以上が記載されている。ここ十数年間、分子系統解析が真菌類の分類に大きな影響を与えてきたが、寄生性ツボカビは、培養が困難であるため、限られた種でしか塩基配列データが取得されていない。この塩基配列データの不足は、メタバーコーディング解析によるツボカビの多様性の評価の大きな障壁となっている。また、ツボカビの宿主特異性は、主に形態観察に基づいて同定したツボカビと宿主の組み合わせの記録によって認識されてきた。しかし、形態的特徴の乏しいツボカビ(または宿主)の同定が困難であるケースもあることから、DNAバーコーディングを併用し、宿主特異性を再検討する必要がある。
本発表では、培養系を用いた藻類寄生性ツボカビの分類学的検討から見えてきた、寄生性ツボカビの系統的多様性および、寄生性ツボカビとメタバーコーディング解析によって示された正体不明のツボカビとの対応関係について報告する。また、ツボカビの生態学的機能を評価するうえで重要となる宿主特異性について、宿主の分類の再検討および感染実験の結果を踏まえ、今後の研究の展望を述べたい。


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