| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
企画集会 T08-3 (Presentation in Organized Session)
奄美大島のリュウキュウアユは,南部の大島海峡によって,役勝川を中心とする住用湾グループと河内川を中心とする焼内湾グループに隔てられている.系統解析の結果,生息地間の遺伝的交流が途絶えてから久しいことが判明している.環境収容力の限られた島嶼域においては,地域個体群の規模の縮小にともなって生じる生存確率の低下が懸念される.リュウキュウアユ全体の保全を実現させるために,個体群の分断機構の解明が急がれている.
役勝川の注ぐ住用湾では,多くの仔稚魚が,マングローブの発達した低鹹な河口域で過ごすことが知られている.内部栄養に依存する基亜種孵化仔魚を用いた実験では,浸透圧調節に多量のエネルギーを要する海水中では体成長が抑制されること,また高水温条件下ではエネルギーの消費速度が高まることが観察される.このことから,初期生活史を送るリュウキュウアユにとって,水温の高い亜熱帯の海域は,汽水条件に近い河口域に比べると,より過酷な環境であることが予想される.そこで本研究では,役勝川遡上個体の耳石を用いた日輪解析とSr/Ca比分析の併用により,海中生活期間中の塩分環境履歴ならびに成長速度の推定を行った.その結果,湾口あるいは湾外の高塩分環境を経験した個体では成長の遅滞が観察された.一方,湾奥河口域の低塩分環境下では個体間の成長速度に好悪のバラツキが認められた.低塩分条件下において成長に影響を及ぼす要因としては,餌料生物との遭遇頻度等が考えられる.以上から,海水の高塩分が長距離に及ぶ初期分散の妨げになっている可能性が示唆された.地球規模的な温暖化が進行すると,海中生活に要するコストの上昇が見込まれ,個体群の分断はより強固なものになることが予想される.こうした状況の下では,地域個体群を単位とした保全施策が優先されるべきである.低鹹な生息環境を提供するマングローブ林の涵養は,効果的であると考えられる.