| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
企画集会 T08-5 (Presentation in Organized Session)
【世界自然遺産指定とそこで「守られるべき自然」とは何か】
最短で2018年度中の世界自然遺産登録が目指されている奄美大島では、アマミノクロウサギ等の遺存固有種がときに自然保護の表徴種とされてきた。その一種であるリュウキュウアユはいったん絶滅寸前まで追い込まれた絶滅危惧種であるが、2000年代からの保護・増殖活動(事業)によって個体数を回復させていった。本報告では、「希少種リュウキュウアユ」をめぐる保護・増殖活動とその展開に注目し、地元が野生生物保全をどのように受け止め、そのプロセスをどう認識しているのか検討する。
【生物多様性と文化多様性を架橋する融合的手法】
本報告は、井口(保全生態学)の研究手法に加えて黒田(環境社会学)や他研究者(環境学・環境民俗学等)の視点を組み合わせた融合的な手法によって2014年度から長崎大学を中心に行われている融合研究の成果に基づく。奄美をめぐっては、これまで島嶼固有の生態系と固有の生業(生活)文化に対する調査研究が個別に進められてきたが、本報告は両者を結び付けるような研究と実践を企図している。
【二次的自然の価値と意味を問いなおす】
奄美において一定の世代以上の人々は、かつて水田地帯の用水路や流域の小河川において、 “ヤジ”(リュウキュウアユの地元呼称)を網やカゴ、追い込み漁などによって獲って食べていた記憶をもつ。しかし島内でも市街地域や、世代によっては「リュウキュウアユ」の認知度は決して高くなく、かかわりが無いため意識もほとんど見えてこないのが実状である。また年配層にとって“ヤジ”が「希少種リュウキュウアユ」として、「守られるべき自然」とされたことはやや複雑な響きをもつ。そうした中で近年取り組みが盛んになってきている「水田(二次的自然)再生」の試みがもつ意味について読み解き、そこからリュウキュウアユ保全活動を通じて新たに地域社会の世代間を結ぶ可能性を探る。