| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T10-1  (Presentation in Organized Session)

林床の枯死木が支えるトビムシ群集の機能の多様性

*藤井佐織, Matty P. Berg, Richard S. P. van Logtestijn, Jurgen van Hal, LOGLIFE Team, Johannes H. C. Cornelissen(アムステルダム自由大)

環境変動下における生態系プロセスの変化を生物群集レベルの反応を組みこんで予測していくために、生物群集と生態系機能の関係の解明が生態学の重要な課題の一つになっている。しかし、主要なプロセスの一つである分解を担う土壌動物に関しては、多様性と生態系機能の間にさえ、明瞭な関係性がみられることは少ない。混乱を生む一つの理由として、土壌動物の主な資源である落葉・落枝等のリターが、土壌動物にとって食物であるだけでなく同時に住み場所としての役割を持つことがあげられる。分解に対する土壌動物の機能は摂食活動によって果たされるが、土壌動物群集は資源を食物としてではなく、ただ住み場所として選んでいる可能性がある。そこで発表者らは、土壌動物と資源の関係を、“the trait-based response-and-effect framework”(反応形質と効果形質を分離した形質に基づくフレームワーク; e.g., Diaz et al. 2013)に基づいて、土壌動物の住み場所に対する“反応”と摂食活動を介した“効果”に分離することを着想した。本発表では、オランダのSchovenhorstにある大規模木材分解実験(LOGLIFE experiment)サイトを利用し、資源の空間的不均一性を生み出す枯死木を含む林床をモデルシステムとして使用した研究を紹介する。多くの陸域生態系において優占するトビムシ群集を対象に、食性に関わる効果形質として炭素、窒素の自然安定同位体比を測定し、これらの値と枯死木上のコケ、樹皮、土壌に対する住み場所選好性の関連性を評価した。このアプローチにより資源の食物と住み場所としての役割が分けて評価されたことで、住み場所の消失がトビムシの生態系機能に及ぼす影響等を論じることが可能になった。また本研究は、我々が知る限り、枯死木上のトビムシ群集を世界で初めて定量的に調査した研究である。枯死木はこれまでトビムシの資源として考慮されることがほとんどなかったが、トビムシの機能の多様性の維持に必須の資源であることが明らかになった。


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