| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T10-3  (Presentation in Organized Session)

木材腐朽性菌食甲虫の空間分布と胞子散布

*原田友也(金沢大学)

木材腐朽性多孔菌類は,子実体を枯死木上に形成する.硬質で長命な多孔菌類には多くの菌食性甲虫類が訪れ,幼虫や成虫が摂食する.木材腐朽菌の基質である枯死木は離散資源なので胞子散布で繁殖するがこれには物理散布と動物散布がある.菌類の一般的胞子散布方法として考えられている風散布は,散布されている胞子のうち95%は子実体から半径1m以内に落ちており,距離が離れるにつれ,地上に落ちる胞子数は指数関数的に減ることが報告されている(Galante et al.2011). 動物散布は動物の移動に伴って胞子密度は保たれたまま散布される. 木材腐朽菌は枯死木という森林内に離散する基質を利用するため,倒木に高密度で胞子を運ぶ動物散布が適している可能性がある.木材腐朽性菌類の胞子を胞子食性昆虫が散布する報告や(Tuno 1999,Kobayashi et al. 2017),菌食性甲虫が豊富な倒木では木材腐朽菌の発生確率が増加したという報告 (Jacobsen et al., 2015) もある. 菌食性甲虫が枯死木間を移動していることは明らかだが,実証的研究例はまだ少ない.本研究では菌食性甲虫類の空間分布と胞子散布者としての可能性を解明するために,菌食性甲虫類から排泄された胞子の発芽実験と標識再捕獲法により菌食性甲虫類の枯死木パッチ間の移動パターンを調べた.
 調査は,2016-2017年に金沢大学角間キャンパス内のコナラ・アベマキが優占する里山で行い11科32種593個体の菌食性甲虫を採集し,このうち3科5種32個体の排泄物で胞子が観察された.標識再捕獲法による甲虫の移動調査と排泄された胞子の発芽実験の結果から,ルリオオキノコ Aulacochilus sibilicusは移動性が高く,発芽能力のある胞子を排出するため,胞子散布者として機能することが示唆された.
次世代シーケンサーなど感度の高い分子生物学技術の進歩により,菌食性甲虫類の運ぶ胞子と大気中浮遊胞子の比較が可能になっており,真菌類における動物散布と風散布の重要性を相対的に評価できると考える.


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