| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T15-4  (Presentation in Organized Session)

農業水利施設における生態系の評価と保全

*森淳(北里大学), 渡部恵司(農研機構農工研部門), 嶺田拓也(農研機構農工研部門), 小出水規行(農研機構農工研部門), 竹村武士(農研機構西日本農研)

農業水路や水田の整備を行う農業農村整備事業は、農業生産性の向上に大きく貢献した一方、魚類などの生息環境としての農業水路の質を低下させた。このことに対する反省から事業実施にあたっては「環境との調和に配慮する」こととされたものの、農業水路における水域生態系(以下,水域生態系という)は改善されていない。これは既往事業によって負のインパクトを受けた生態系を修復させるための効率的な仕組みがないためである。水域生態系を修復するには、地元農家による内発的な活動の展開が期待されるが、これも軌道に乗っていない。障害となっているのは、社会経済的理由の他に、自分たちは何を手掛かりに、何をすべきかという情報が不足していることも一因である。
このため、農業農村整備事業や多面的機能支払交付金の実務を担当する農村振興局および都道府県ならびにそれらの出先機関など、生態系配慮等に関する地元説明を担当する技術者を想定し、改修後の水路等において地元農家が簡便かつ安価に行える生態系保全活動を後押しするためのマニュアルを作成した。本発表ではその中から、「魚の棲みやすさ評価プログラム」を中心に報告する。これは(1)1年目に、水路環境の計測値および魚類採捕数を入力後、水路環境と魚類の各指標の集計、水路環境に基づく棲みやすさの評価式の作成、評価スコアの計算が行われ、結果が順に表示される。(2)2年目以降は、水路環境の計測値を入力後、水路環境の指標の集計、評価スコアの計算が行われ、結果が表示される。本プログラムの使用により、水域生態系の修復に取り組む活動組織が棲みやすさの評価に取り組む際に、容易にデータ整理・解析を行えるとともに、必要な作業にかかる労力や費用が削減でき、継続的な評価の実施が期待される。
なお、本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「生物多様性を活用した安定的農業生産技術の開発」の成果である。


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