| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T15-5  (Presentation in Organized Session)

鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の簡易評価手法

*池田浩明(農業環境変動研究セ)

農業における生物多様性の主流化を図るためには、生物多様性に配慮した農業を普及させる必要がある。この普及のためには、環境に配慮した農業の取組みによる生物多様性の保全効果を定量的に評価する手法を開発し、農地における生物多様性の「見える化」を図る必要があった。これを受けて先行研究を行い、2012年に、農業に有用な指標生物(天敵など)を用いた評価手法を構築した。しかし、この手法は、指標生物がクモ類、昆虫類、カエル類で構成され、その訴求力や評価の簡易さの部分に改善する余地が残されていた。そこで新たに、訴求力の高い鳥類を代表種として位置づけ、絶滅危惧種を加点する水田の簡易評価手法に改良した。
本手法は、鳥類の生息環境を指標する生物1種類(サギ類またはその餌生物から選択)と農法の指標生物2種類(クモ・昆虫類から1種類を選択、本田・畦畔の指標植物は必須)の個体数または種数をスコア化し、その合計スコアで総合評価する。ここで、スコアの基準となる個体数と種数は地域別(一部は農事暦や農法・降水量で異なる)に定めた。また、環境省または都道府県のレッドリストにおける準絶滅危惧種以上の水鳥、絶滅危惧種のカエル類・植物(本田・畦畔)を加点(3種類の指標生物ごとに+1点)できることとした(調査は任意)。総合評価は、環境に配慮した取組みの保全効果を4段階(S~C、Sが最高ランク)で評価した。
本手法で全国6地域の調査水田(N=207)を評価した結果、最高ランクのS 評価となった圃場は、有機栽培で46%、特別栽培で13%、慣行栽培で3%だった。また、絶滅危惧種は有機栽培水田によく出現した。したがって、本手法によって、環境に配慮した農業の取組みを生物多様性の観点から差別化できることが明らかになった。
なお、本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「生物多様性を活用した安定的農業生産技術の開発」の成果である。


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