| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム ME02-2 (Presentation in Symposium)
従属栄養生物は自身の体を成長、維持するために栄養を摂取する。特に成長期は栄養摂取と成長に特化しており、摂取した栄養は各組織にエネルギー源として貯蔵、利用されるだけでなく、身体のビルディングブロックおよびシグナル伝達物質として使用される。このような発育が正常に進むためには、自身の栄養状態を感知しながら摂取した栄養を適切に活用する必要があると考えられるが、個体発育の栄養依存性を支えるメカニズムとはどのようなものであろうか?私たちは、遺伝学的手法が整ったショウジョウバエを用い、個体成長の調節において中心的な役割を担う脂肪細胞に着目し、個体発育を制御する遺伝子の探索と機能解析に取り組んでいる。
本研究では、脂肪細胞において栄養依存的に機能する因子を同定するために脂肪細胞選択的なRNAiスクリーニングを行い、ノックダウンにより発育の異常を示す5遺伝子を同定した。特に、熱ショックタンパク質(HSP)の一種であるHsp83/Hsp90のノックダウン個体では顕著に体重およびリン脂質濃度が低下しており、インスリンシグナルの活性も低下していた。さらに、Hsp83/Hsp90の遺伝子発現は飢餓により低下し、タンパク質の再摂食により回復することも見出した。これらの成果は、脂肪細胞に発現するHsp83/Hsp90は個体成長の進行に必須であり、その発現はタンパク質摂取に依存することを示している。Hsp83/Hsp90は、タンパク質のフォールディングを修復・安定化する分子シャペロンであり、熱ショックなどのストレスによってその遺伝子発現が惹起される「ストレス応答因子」である。成長期において、栄養摂取に伴い生体内で多種多様なタンパク質が活発に産生されることは、フォールディングが異常なタンパク質が増加する危険性を孕んでおり、それゆえ生体は、Hsp83/Hsp90を栄養依存的に誘導し、活発なタンパク質産生という一種のストレス環境に適応していると考えられる。