| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム ME02-5 (Presentation in Symposium)
生物を取り巻く環境は、季節に応じて大きく変動する。このため、生物はその形態や生理、行動を、日長や温度に応じて変化させる。中でも繁殖時期は、生物の適応度を左右する最も重要な形質である。季節変動の大きな環境では、繁殖に適した特定の時期に繁殖を行うことが生物の適応度を上げる一方、季節変動の少ない環境では、季節と無関係により長い繁殖期をもつ個体が有利になる。このような季節性繁殖の多様化は自然集団でもよく見られ、時に種分化の引き金となって、更なる形質の多様化を引き起こす一方、どのような遺伝的変異がこのような季節応答性の獲得や喪失をもたらすのかはほとんど明らかにされていない。そこで私たちは、種内に日長応答性の繁殖を示す祖先的な海型と日長応答性を失った派生的な淡水型を持つトゲウオ科魚類イトヨGasterosteus aculeatusをモデルに、この問題に取り組んでいる。これまでの研究から、祖先的な海型では、甲状腺刺激ホルモンTSHb2が日長条件に依存して繁殖と成長のオンオフを切り替えるスイッチとして機能する一方、淡水型では、TSHß2の日長応答性が失われ、長い繁殖期を実現していることが明らかになった。更に、日本と北米で独立に進化した淡水型では、異なる分子遺伝機構によってTSHb2の日長応答性が失われていることが分かった。そこで、本発表では、これまで明らかになったイトヨの季節性繁殖における甲状腺刺激ホルモンTSHb2の多面的機能と、淡水域への進出に伴って生じたTSHb2の日長応答性の収斂的喪失をもたらす分子遺伝基盤を紹介する。