| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-099 (Poster presentation)
結実率は訪花昆虫と植物の相互作用の指標として頻繁に用いられる。結実率の違いは個体群の種子供給・実生生産に影響を与える重要な動態パラメータである。しかし、個体の繁殖成功と個体群動態を結び付けた研究例は少ない。
ケシ科多年生草本のエゾエンゴサクは北海道の落葉広葉樹林に生育する春植物である。エゾエンゴサクの結実成功はマルハナバチの訪花に依存し、マルハナバチの活動時期と開花時期のずれにより、種子生産量が大幅に年変動する。種子の多くは翌年実生となるため、種子生産の増減が個体群動態に強く作用すると考えられる。本研究では、野外での操作実験により種子供給量の変動に対する個体群動態の応答を明らかにし、訪花昆虫と植物の相互作用が種子生産を通して個体群の維持に与える影響を考察する。
札幌近郊のエゾエンゴサク個体群に1m×1mの方形区を設置し、種子供給の異なる3つの処理(1)種子除去(散布前に果実序の除去)、(2)対照(自然種子散布)、(3)播種(開花個体の結実率100%相当となるよう種子を追加散布)を施した。同時に実生、2-4枚葉、5枚葉、開花の4生育段階分け、個体群追跡調査を3年間行い、その後、推移行列モデルを作成した。
推移行列解析の結果、処理間で個体群維持構造は大きく異なった。個体群成長率は、種子除去区で最も低く、播種区で高かった。実生の生存率は種子供給量の増加とともに急激に低下した。また、実生以外の個体の生存・成長率も種子供給量の増加とともに低下した。安定生育段階構成のうち最も構成比が高いのは、種子除去区で開花個体、対照区で2-4枚葉個体、播種区で実生であった。つまり、種子供給量の増加は、当然、実生の加入数を増加させて個体群維持に貢献するが、同時に他の生育段階の生存率や成長率の低下をもたらしていた。今後は、自然環境下で個体群への種子供給不足(種子制限)がどの程度起きているのか検証する。