| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-100 (Poster presentation)
北日本の日本海側など、多雪地に生育するオオウバユリ(Cardiocrinum cordatum var. glehnii)は、関東以西の太平洋側などの少雪地に生育するウバユリ(C. cordatum)に比べて大型化している。多雪地では、春先の融雪水を成長に利用することで、光合成に有利な反面、蒸散量が多い、薄くて大きな葉(SLAの高い葉)が作られやすいことが、先行研究で予想されてきた。本研究では、多雪の影響によってウバユリ・オオウバユリのSLAが高まると、相対成長速度の増加を介して、個体サイズが大型化すると仮説を立てた。
新潟県上越地域には、地域内に大きな積雪傾度が存在し、オオウバユリの地域個体群内にもサイズ変異が生じている。そこで、本地域において、春先の積雪量(残雪量)がオオウバユリの葉特性および個体サイズ変異に及ぼす影響、葉特性と個体サイズとの関係、積雪以外の環境因子が個体サイズ変異に及ぼす影響を分析した。
2016年7月〜2018年9月にかけて、上越地域に12ヵ所の調査地を設定し、開花個体の花茎高、果実数、葉数、個体の最大葉面積、SLAを測定した。また、国土数値情報平年値メッシュデータ(気象庁 2010)より、各調査地における過去30年間の3月の最深積雪量、4月と5月の降水量、平均気温、全天日射量のデータを得た。さらに、各調査地で全天写真を撮影し、林冠閉鎖直後の5月半ばに林床に届く直達日射量を推定した。環境因子が個体サイズに及ぼす影響については、一般化線形混合モデルを用いて解析した。
解析の結果、春の残雪量はSLA、葉サイズ、個体サイズに有意な影響を及ぼしていなかった。また、個体サイズが増大するにつれて、SLAは低下する傾向にあった。従って、本研究の仮説は支持されなかった。本地域のオオウバユリは、春の伸長開始期に降水量が多く、林冠閉鎖後にも明るい環境下で大型化する傾向が見られた。