| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-102  (Poster presentation)

生活史過程により緩衝される生息地の分断化の影響 -オオバナノエンレイソウの事例ー
Life history processes buffer the detrimental effects of habitat fragmentation - a case study of Trillium camschatcense -

*都築洋一, 大原雅(北大・院・環境科学)
*Yoichi TSUZUKI, Masashi OHARA(Hokkaido Univ. Env. Science)

生息地の分断化は野生生物集団を縮小・孤立させ、その存続を脅かす。存続可能性の低下の主要なプロセスとして遺伝的多様性の喪失がある。集団が分断され有効集団サイズが小さくなると、ボトルネック効果に加え、長期的には遺伝的浮動による遺伝的多様性の減少が生じる。また分集団間の遺伝子流動が抑制されることで、一度失った対立遺伝子は回復しにくくなる。このように分断化によって遺伝的多様性が失われることは、集団の長期的な存続が困難になる大きな要因と考えられる。
本研究では北海道十勝平野の孤立林に生育する多回繁殖型の多年生植物オオバナノエンレイソウを対象に、分断された集団の遺伝的多様性を調査した。まず面積が異なる24の孤立林を選び、そこに生育するオオバナノエンレイソウ集団の有効集団サイズ(開花個体密度)を調べた。その結果、生息地面積と開花個体密度には正の相関があり、分断され縮小した生息地では有効集団サイズが減少していることが示唆された。
次に遺伝的多様性の時間的変化を推測するために、各集団で実生個体から開花個体までの生育ステージ間で遺伝的多様性を比較した。その結果いずれの集団においても遺伝的多様性はステージ間で大きな差異が認められず、個体の更新が進んでも遺伝的多様性は減少しないことが示唆された。これは、1)開花個体が長年生存・繁殖して次世代を生産する、2)成長の個体差により様々な世代が同じ生育ステージで重複する、これらオオバナノエンレイソウの2つの生活史特性が遺伝的浮動を相殺しているためだと考えられる。
そこでこの2つの生活史特性の影響を検証するために、先行研究で調べられたオオバナノエンレイソウ個体群の推移行列モデルを用いて、開花個体の平均余命と各ステージでの平均滞留時間を推定した。発表ではその結果も含め、生活史過程が分断化による遺伝的多様性の喪失の緩衝に果たす役割を議論する。


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