| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-104 (Poster presentation)
チョウノスケソウ(Dryas octopetala sensu lato)は周北極植物の一種であり,高緯度北極ツンドラから中緯度高山にかけて幅広く分布し,個体群間で葉特性に変異が見られる.本種は日本では,中部山岳から北海道の高山帯に孤立して分布し,中部山岳のものは本種の南限域個体群に相当する.高緯度北極域の個体群は北限域にあたり,遺伝的多様性が高いのに対し,南限域個体群は遺伝的多様性が著しく低く(Hiraoら 2017),個体群の縮小や絶滅の懸念がある.北極域個体群では,葉Nが低く,LMAが高く半常緑または常緑性であり,一方,日本の中部山岳を含む極東地域個体群では,葉Nが高く,LMAが低く落葉性である(和田ら 2003).演者らは,北限域と南限域の個体群における本種の個葉特性について,これまで研究を続けてきた(ESJ63〜,関川ら2016など).ESJ65(2018)までに報告した高緯度北極域のニーオールスン個体群(NA),日本の立山個体群(TT)に加え,本講演では,日本・中部山岳において新たに2つの個体群(木曽駒ヶ岳(KS),八ケ岳(YG))の個葉特性を評価し,比較した結果を報告する.中部山岳域では,個体群によって葉Nに依存して葉重ベースの純光合成速度Amは異なるが,PNUEは同程度であり,高CO2(800 ppmV)下でのAmは大気CO2(400 ppmV)下に対し1.6倍であった(NAのそれは1.3倍).中部山岳域の3個体群はNA個体群に対して,LMAが0.46倍(SLAが2.2倍),葉Nが1.4倍,Amが2.8倍を示し,PNUEは約2倍であった.中部山岳域では,葉面積を広げ,限られたNをより有効に光合成に利用していることが示唆された.