| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-105  (Poster presentation)

絶滅危惧種タチスズシロソウのトライコーム数を調節する環境要因について
Statistical analysis of environmental factors that control the number of leaf trichome of Arabidopsis kamchatica ssp. kawasakiana

*吉山浩平, 柳崎祥希, 沼田はるな, 原田英美子(滋賀県立大学)
*Kohei YOSHIYAMA, Yoshiki YANAGISAKI, Haruna NUMATA, Emiko HARADA(Univ. of Shiga Prefecture)

アブラナ科ヤマハタザオ属の多年草であるタチスズシロソウArabis kawasakianaは,表皮細胞が分化して形成される毛状突起物(トライコーム)に亜鉛やカドミウムなどの重金属を集積することが示唆されている。本研究の目的はタチスズシロソウのトライコーム発現に作用する環境要因を明らかにすることである。調査は滋賀県彦根市薩摩町で行った。ランダムに選定した15区画内(1x2m)のタチスズシロソウ各3個体から株あたり3枚の葉身部を採取した。葉身中央部のトライコーム密度を測定し,密度と葉面積を掛け合わせたものをトライコーム総数とした。亜鉛およびカドミウム量はICPで測定した。その他環境要因として,土壌CNおよび水分含量,被覆度を測定した。実験は薩摩および近江白浜を生息場所とするタチスズシロソウ2株ずつから採取した種子を用い,各遺伝子型に対し3つの処理区(control/亜鉛区/カドミウム区)を設定した。実験・調査それぞれに対し,トライコーム総数を目的変数とし,環境要因を説明変数,株と葉それぞれの間のばらつきをランダム効果とする階層ベイズモデルを構築した。各パラメータの定常分布はMCMC法により推定した。得られたモデルの尤度比較はDICを用いた。調査結果については亜鉛の効果と土壌N量の効果でトライコーム総数を説明できた。実験結果については遺伝型の効果,亜鉛区・カドミウム区それぞれの効果,近江遺伝型と亜鉛区の交互作用で説明できた。土壌中の亜鉛はタチスズシロソウのトライコーム重金属集積能力を高める可能性がある。N量は生息環境の植物密度を高め被陰することでタチスズシロソウが受ける紫外線量を減少させトライコーム総数に負の影響を与えた可能性がある。遺伝型の効果および亜鉛・カドミウムの効果より土壌金属とトライコームの関係は環境順応であることは明らかであり,トライコームの可塑的な増加はタチスズシロソウの適応度を高めている可能が示唆された。


日本生態学会