| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-109  (Poster presentation)

分布拡大している小高木アオモジの遺伝構造
Genetic structure of a range-expanding small tree species Litsea cubeba

*川口英之(島根大学), 河原崎知尋(島根大学), 兼子伸吾(福島大学), 井鷺裕司(京都大学)
*Hideyuki Kawaguchi(Shimane Univ.), Chihiro Kawarazaki(Shimane Univ.), Shingo Kaneko(Fukushima Univ.), Yuji Isagi(Kyoto Univ.)

 クスノキ科の落葉樹アオモジは、本州では山口県と岡山県の一部、九州西部、さらに南に分布するとされていた。しかし最近、分布の拡大が報告されている。山陰地方では鳥取県西部で確認されている。アオモジのマイクロサテライトマーカーを用いて、鳥取県西部で分布拡大している集団、本来の分布域の最も北西に位置する長崎県西部の集団、山口県北西部の本来の分布域とそこから隣接して分布拡大している集団の遺伝構造を解析した。鳥取県西部、山口県北西部、長崎県西部でそれぞれ6、8、7ヶ所、合計21ヶ所で16個体ずつ葉を採取した。
 鳥取県西部で分布拡大している集団は、東の大きな集団と、西のやや小さな集団の2つに分かれ、これらは異なる経路で分布拡大したと推定された。また、西の集団のなかで東の集団からの混交がおこりつつあるとみられた。地理的距離と遺伝的距離の関係は、長崎県西部の集団では有意であったが、分布拡大している山口県北西部の集団および鳥取県西部の東西2集団では有意でなかった。しかしこれらの集団でも内部において有意な遺伝的分化が観察された。全集団の遺伝構造を解析した結果、鳥取県西部に分布拡大しているアオモジのなかで東に位置する集団と、その他の集団に大きく2つに分かれた。鳥取県西部のなかで東に位置する集団は遺伝的に他とは大きく異なった。その他は、長崎県西部、山口県北西部、鳥取県西部のなかで西に位置する集団の3つに分けられた。山口県北西部の集団は長崎県西部の集団に比べて遺伝的な多様性が低かった。鳥取県西部のなかで西に位置する集団は、長崎県西部の集団に遺伝的に近くわずかに多様性が高いことから、九州西部から南の集団から移入されたと推察された。鳥取県西部のなかで東に位置する集団は、国外も含めてさらに遠く多様性の高い集団から移入された可能性があった。


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