| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S02-4  (Presentation in Symposium)

ウイルスのジレンマ:ホストの内と外
Within-host or between: an evolutionary dilemma for viruses

*佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Akira Sasaki(SOUKENDAI)

病原体は、宿主体内での増殖と、宿主集団内での個体間感染という2つの全く異なるプロセスにおいて、異なる方向の自然淘汰圧にさらされる。たとえば、HIV-1では新しい宿主に感染した直後のウイルス(Transmitted/Founder virus)と、宿主体内で増殖を重ねたウイルスとの間には大きな遺伝的距離が生じるが、感染宿主から次の宿主個体に伝播するタイプは、Founder virusのタイプに戻ることが知られている。また、多くのウイルスでは、宿主個体への感染初期と感染後期とでは増殖する組織が異なり(multiple tropism)、異なる淘汰圧のもとで各組織に適応した遺伝子型へと急速かつ大きく進化の振り子を振らせつつ、異なる宿主個体への感染を繰り返している。複数の宿主を渡り歩くマラリア原虫やデング熱ウイルスなど昆虫媒介の病原体でも、異なる宿主種の上で進化的なジグザグ歩行を繰り返していると言える。ゲノムサイズの小さなウイルスでは、異なる宿主や組織での遺伝子発現スイッチといった機構の進化は困難であり、進化軌道のゲノム配列の蛇行運行か、擬種分布の多型維持でしかこのような状況に対応できないと考えられる。
 この状況を理論的に取り扱うため、病原体の連続形質の適応進化とランダムな突然変異による拡散の動態を疫学モデルの上に定式化し、宿主個体内の複数組織の周期的交替のシーケンスの上で定式化する。これは生態学的にみると、変動環境下の連続形質の適応の問題と類似性があり、休眠(標的細胞内やサンクチュアリでの潜伏)、環境変動幅(組織間の最適形質間の差)、密度依存制御のかかるタイミングによるソフト・ハード選択の度合い、組織交替までの周期、突然変異率による変異蓄積速度等によって進化動態とその帰結が大きく異なることを示し、進化軌道「波打ち型」の適応や、進化的分岐による両賭けなどの出現条件を明らかにしたい。


日本生態学会