| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S06-3 (Presentation in Symposium)
沿岸に生息するいくつかの魚種では、稚魚期に複数種類の生息場所(淡水域(河川)、汽水域(河口)、海域(砂地、藻場等))を利用することが知られている。さらに、一部の魚種では、それぞれの生息場所を利用した稚魚の、成魚までの生き残りの程度が評価されている。例えば、丹後海のスズキ稚魚(Kasai et al. 2018)は、沿岸の浅海域に着底した後、一部は浅海域にとどまり、一部は河川を遡上する。河川遡上は、浸透圧調整のための生理的コストを伴うが、豊富な餌を採取できるため、結果として成長は良好である。スズキ稚魚の生息面積は河川:浅海域=32:130であるが、スズキ成魚が稚魚期に生息した場所の比は、河川:浅海域=51:49であった。このことから、河川は、浅海域と比べて、成魚の生産性が高い生息場所であると評価された。同様に、仙台湾のイシガレイ稚魚(Yamashita et al. 2000)も、汽水域と浅海域に生息する。汽水域の面積は浅海域の6%程度であるが、成魚が稚魚期に生息した場所は汽水域と浅海域で同程度であった。両魚種とも、成魚が稚魚期に生息した場所は、耳石のSr:Ca値を用いて識別された。
一方、ヒラメ稚魚は水深15m以浅の砂地で一定期間(通常は数ヶ月)滞在した後、深場に移動する。移動のタイミングは、魚体サイズ、水温、餌料環境が決めていると考えられる。仙台湾ヒラメ稚魚(Kurita et al. 2018)は浅海域に数ヶ月~1年間滞在し、深場への移動のタイミングは個体によって異なる。移動時期とその後の生活史の関係解明が待たれる。また、青森~茨城県太平洋岸に生息するヒラメは一つの系群(個体数変動の単位)と考えられるが、成魚が稚魚期に生息した海域(各県沿岸)の構成比の決定機構も、解明が待たれる。これらの課題を解明するために、稚魚期における生息場所の指標が探索されている。