| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S06-4  (Presentation in Symposium)

仙台湾における東日本大震災以後の食物網構造の変化
Changes in the food web structure after the 2011 Great East Japan Earthquake in Sendai Bay

*冨樫博幸(水産機構 東北水研)
*Hiroyuki Togashi(Tohoku Natl. Fish. Res. Inst.)

2011年3月に発生した東日本大震災(以降,震災)に伴う地震・津波によって,東北地方の沿岸漁業は大きな被害を受けた。一方,魚類については,放射性物質の海洋流出によって,漁業の操業自粛が行われ漁獲圧が低下し,多くの魚類で資源量の増加が報告されている。資源評価報告書(水産庁・水産機構)によれば,太平洋北部系群におけるヒラメ直近5年間の資源量は,1990年以降の最大を記録し,齢構成も高齢化している。このような漁業の突発的な変化による資源量の増大や齢構成の変化が食物網構造にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため,本研究では,震災以降の資源量および安定同位体比を用いて,仙台湾における主要漁業資源を中心とした食物網構造の変化を検討した。
試料の採集は仙台湾の6定点において,2011年9月〜2018年2月の期間,年3-4回の頻度で底曳網(調査船若鷹丸および漁船)により行った。得られた試料は,全長,体重を計測した後,調査日,種毎に5検体以上,炭素・窒素安定同位体比を測定した。食物網構造の定量的な評価は,Ishikawa et al., (2017) をもとに算出した。採用した生態系指標は,生物量(資源量)と安定同位体比を加味したもので,生態ピラミッドの形を数値で表現することができる。例えば,本指標が高い場合,ピラミッドの上層側に生物量が多い生態系(本研究では“つりがね型”と表記する)になり,低い場合,ピラミッドの下層側に生物量が多い“富士山型”になる。
仙台湾における主要魚類の生物量と平均体サイズは,震災からの経過年数に伴い増大していた。生態ピラミッドの形を評価する生態系指標も,生物量・平均体サイズと同様に,震災からの経過年数に伴い増加していた。このことは,震災による漁業の変化後,生態ピラミッドは急激に変化するのではなく,生物量・平均体サイズの変化と共に緩やかに変化していること,またその形は,“富士山型”から“つりがね型”に変化していることが明らかとなった。


日本生態学会