| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S08-2 (Presentation in Symposium)
野生動物は人獣共通感染症を保有し、またマダニ類の分布を広げることで、人獣共通感染症の拡大に寄与している可能性がある。本発表では、近年日本各地で個体数の増加が報告されているニホンジカ(以下、シカ)について、管理の現状と人獣共通感染症の拡大防止という観点から見た課題について整理した。シカの管理は主に、環境省が所管する鳥獣保護管理法(以下管理法)と農林水産省が所管する鳥獣被害防止特措法(以下特措法)の2つの法律に基づいて行われている。特措法は、市町村単位で任意で作成する被害防止実施計画を促進するための予算措置という側面が強い。野生動物の管理の方針については管理法に基づいて都道府県知事が獣種毎に任意で策定する特定計画に示されているため、以下では管理法について説明する。シカの特定計画は、40の都道府県で策定されていた。特定計画において、シカの個体数について定量的な目標を設定している都道府県は多かったが、都道府県全体の個体数に関する目標がほとんどであり、場所や地域による捕獲目標の違いに言及した計画はなかった。また、捕獲従事者の高齢化に言及した特定計画は多く、捕獲従事者の年齢構成に言及した計画のほとんどで、捕獲従事者の半数以上が60歳以上だった。人獣共通感染症について言及した特定計画は存在しなかった。また、全国スケールでは、環境省と農林水産省は平成25年に、平成25年の全国のシカの個体数を平成35年度までに半減させることを目標として掲げた。つまり、都道府県単位でも全国単位でも、シカの管理目標は管理対象地域全体のシカの個体数となっていた。人獣共通感染症の拡大防止という観点からは、場所に応じた捕獲圧の優先度の設定、捕獲従事者の感染リスク管理などが今後の課題であると考えられた。