| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S08-3 (Presentation in Symposium)
防疫とは宿主抵抗性付与、病原体撲滅および中間宿主・媒介動物・保因者キャリアーあるいはその環境要因などのレゼルボア対策を含む感染経路遮断などを総合して実施する。ここでは、医学・獣医学領域で問題視される感染症対策で用いられる標準的手段の概要に加え、保全生態学がこの防疫に対し具体的にどのような対応が可能なのかを浅川(2016)に最新事例を加え紹介したい。まず、防疫の各段階を時系列的にまとめると1)感染症発生前の監視と予防、2)発生時での早期診断・治療と隔離・伝播経路の遮断、3)発生後での病原体撲滅と環境管理などになる。これらはヒトあるいは家畜・家禽等飼育動物間では有効に働くための枠組みが設定されているが、野生動物が介在すると大きく揺らぐ。たとえば、感染症発生前にワクチン接種が実施されるが、これは標的動物を限定して開発された薬剤であり、これ以外の多くの野生動物では致死的な副作用をもたらす危険性がある(例:ジステンパーワクチン接種の再導入用クロアシイタチ斃死)。実際面では野生種からヒトや家畜・家禽への病原体伝播遮断が大きな課題であり、このために注意深い監視や環境管理が主眼となる。このタスクを完遂するには保全生態学と医学・獣医学との協働が必須で、このような概念(思考)がOne healthアプローチである。ここ数年、国立環境研究所と酪農学園大学野生動物医学センターとは、科研費助成等を受け野生および動物園水族館展示鳥類の病原体(西ナイル熱ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、寄生性蠕虫類および節足動物各種等)疫学調査を実施している。これら一連の調査研究はOne healthアプローチに基づくので、この概念理解の一助としてそのデータの一部を供覧する。引用文献;浅川満彦. 2016. 防除対策:隔離・ワクチン・環境管理, (日本生態学会 編)感染症の生態学, 共立出版, 東京: 323-336.