| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S08-4 (Presentation in Symposium)
寄生性微生物の伝播サイクルには、多くの場合複数種の脊椎動物が関与するが、ここにヒトおよび家畜が含まれると人獣共通感染症等、医学、獣医学領域において重要な感染症と認識される。トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)はネコ科動物を終宿主とし、ほとんど全ての哺乳類や鳥類が中間宿主になる。トキソプラズマ原虫がネコ科動物に初感染すると、その腸管で有性生殖を行い、オーシストを糞便内に排出する。感染性オーシストは、ヒトを含むほとんど全ての脊椎動物に感染し(免疫を獲得したネコを含む)、無性生殖により増殖した後、組織傷害をもたらすか、脳や筋肉組織内でおそらくは終生、シスト(囊子)として潜伏感染する。シストを経口摂取した動物にも感染が起こる。さらに、感染動物を経口摂取したネコが初感染すると伝播サイクルが完結する。ヒトや家畜のトキソプラズマ症はわが国でも発生がみられ、特に妊婦が初感染した場合、胎児に重篤な先天性トキソプラズマ症が起こることもある。わが国においてもトキソプラズマ原虫の伝播サイクルが回っていることが明らかになっている。
アマミノクロウサギやトゲネズミなどの固有種が生息する鹿児島県徳之島では、ノネコの増加が問題となっている。ネコなど外来種の分布域拡大は、生物多様性を脅かすのみならず、病原微生物の伝播サイクルにも影響を与える。2017年から2018年に、徳之島のノネコおよびノラネコを対象に、ELISA法による抗トキソプラズマ抗体保有率の調査を行ったところ、抗体陽性率は47.2%(59/125)と高率であった。このことから、徳之島においてトキソプラズマの伝播サイクルが回っていることが強く示唆された。今後ヒト、家畜、野生動物の抗体保有率調査を行うことにより、トキソプラズマ感染を指標とした様々な野生動物に対する生態系レベルでの感染症リスクを明らかにする必要がある。